東京高等裁判所 昭和38年(ラ)376号 決定 1963年9月02日
抗告人 島田正義
相手方 田中良一
主文
原決定を取り消す。
相手方の本件申請を却下する。
理由
本件抗告理由の要旨は、「抗告人は、相手方の抗告人に対する東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第八、一四七号建物収去土地明渡請求本訴並びに昭和三七年(ワ)第八、七五四号土地賃借権存在確認請求反訴事件につき、抗告人に対し本件建物を収去し本件土地の明渡を命じ、かつその仮執行並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言を付した終局判決の言渡を受け、右事件は現に控訴審に繋属中であるが、抗告人は、昭和三八年六月一三日右判決に定められた金六五万円の担保を供託し、その証明書を執行機関に提出したにもかかわらず、その後になつて建物の収去を命ずる原決定が発せられたのであつて、右決定は違法であるからこれが取消を求める。」というにある。
記載を精査するに、抗告人が、相手方との間の前記訴訟事件につき昭和三八年五月三十日、前記建物収去及び土地明渡を命じ且その仮執行及び金六五万円の担保を条件とする仮執行免脱の宣言を付した終局判決の言渡を受け、次で相手方の同年六月六日にした申請により、同年六月二六日相手方の委任した第三者において抗告人の費用で前記建物を収去することができる旨の原決定が発せられ、翌二七日その決定の送達を受けたこと、及び抗告人は昭和三八年六月一三日右仮執行免脱のための金六五万円の担保を供託したことは、いずれもこれを認めることができるけれども、抗告人が執行機関である受訴裁判所に対し執行停止又は執行処分取消の申立をして右の担保供託証明書を提出したことについては、これを認めるに足りる証拠資料がない。従つて原決定がなされたことについては違法の点はない。
しかし、記録によると、抗告人はその後昭和三八年六月二九日原決定に対しこれを不服としてその取消を求める旨の本件抗告の申立を当裁判所に対してし、その抗告申立書を原裁判所に提出し、これと同時に右申立書にその証拠書類として同月二八日付の右の担保供託証明書を添付して提出したものであることが認められる。これによつて考えると、抗告人の右担保供託証明書の提出は、執行機関である受訴裁判所(原裁判所)に対し直接に執行停止又は執行処分の取消の申立をしてこれを提出したものではなく、原裁判所がした原決定に対しこれを取消すべき抗告の事由として提出したものではあるけれども、この場合においても、民事訴訟法第五五〇条第五五一条の法意に照し、苟も執行の未だ終了しない限りは、その抗告の対象となつた執行処分である原決定はこれを取消すべきものといわなければならない。そして右のような建物収去の決定は、その決定が発せられこれが当事者に送達されても、それだけで直に債務者においてその建物収去の権能を喪失するものではなく、それによつて直に右建物の収去が実現するものでもないから、その収去の実現しない限り執行は終了したものといえないのであり、本件においては記録に照し未だその執行は終了しないものと推認し得ないものではない。
以上により原決定は右担保供託証明書の提出されたことにより結局取消を免れず、従つて相手方の本件申請は却下を免れないから、本件抗告は結局その理由がある。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 村木達夫 中田秀慧 吉田武夫)